~ 研究室だより ~

健康福祉科学科 認知行動カウンセリング学研究室 根建 金男


1.研究室概要
 カウンセリングは、精神疾患を有する人たちの治癒のみならず、健常な人たちの健康な状態の維持・増進/不調・精神疾患の予防にも貢献しうるものである。当研究室では、カウンセリングの枠組みに準拠して、認知行動療法と構成主義心理療法に関する研究を行ってきた。今日、認知行動療法には、新世代の認知行動療法も含まれる。現実は客観的に存在するのではなく、人が構成する(つくる)ものだとする認識論である構成主義を背景とする構成主義心理療法では、人が世界をどう構成(認識)しているかをその人の側から理解し、アプローチしようとする。合理主義/客観主義に基づき、実証性を重視する認知行動療法と、構成主義に基づき、人の個別性を大切にする構成主義心理療法は、相互補完的な関係にある。当研究室では、認知行動療法と構成主義心理療法の統合をめざしながら、アンケート調査、実験、インタビューなどの手法を用いて、人の不安、抑うつ、怒り、精神疾患およびその傾向、幸福感などを理解し、それらにアプローチするためのさまざまな研究に取り組み、その成果を国内学会/国際学会の大会や学術雑誌において発表してきた。

2.教育内容
(1)学部
 
 学部の専門ゼミでは、認知行動療法、構成主義心理療法に力点を置いて、臨床心理学における研究と実践、臨床心理学の対象となるさまざまな問題や精神疾患およびその傾向、臨床心理学で用いる研究の方法やデータ解析の手法などについて、文献、ビデオ/DVDなどを通して学ぶ。このような学習にあたっては、発表とディスカッションを重視している。2013年度以降にとりあげてきた文献は、数多くの学術論文ならびに、エイドリアン・ウェルズ(著) 熊野宏昭・今井正司・境 泉洋(監訳) 2012 メタ認知療法―うつと不安の新しいケースフォーミュレーション 日本評論社、クリストファー・R・マーテル/ソナ・ディミジアン/ルース・ハーマン-ダン(著) 坂井 誠・大野 裕(監訳) 2013 セラピストのための行動活性化ガイドブック―うつ病を治療する10の中核原則 創元社、ユーナス・ランメロ/ニコラス・トールネケ(著) 松見淳子(監修) 武藤 崇・米山直樹(監訳) 2009 臨床行動分析のABC 日本評論社、などの著書である。学部の卒業研究でとりあげるテーマは、認知行動療法、構成主義心理療法の立場から、人の不安、抑うつ、怒り、精神疾患およびその傾向、幸福感などを理解し、それらにアプローチすることに関連するものである。卒業研究ゼミ受講者には、教員の指導、大学院博士後期課程の学生の指導補助のもとで、日頃から卒業研究に取り組んでもらい、随時その進捗状況を発表してもらう。こうしたことを積み重ねて、徐々に卒業研究論文ができあがる。 
(2)大学院
 博士後期課程の学生も参加する、大学院修士課程のゼミは、学部の専門ゼミよりもレベルが高くなるが、基本的には、学部の専門ゼミと同様に実施する。ただし、学部生の場合とは異なり、修士課程の学生各自が行った学外実習に関するスーパーヴィジョンも行う。2013年度以降にとりあげてきた文献は、数多くの学術論文ならびに、 ジョセフ・V・チャロッキ/アン・ベイリー(著) 武藤 崇・嶋田洋徳(監訳) 2011 認知行動療法家のためのACTガイドブック 星和書店、クリスティーン・ネフ(著) 石村郁夫・樫村正美(訳)2014 セルフ・コンパッション―あるがままの自分を受け入れる 金剛出版、などの著書である。 修士論文/博士学位論文に取り組んでいる大学院生の研究テーマは、基本的には学部生の場合と同様である。大学院生にも、教員の指導、上級生の指導補助のもとで、日頃から各自の研究に取り組んでもらい、随時その進捗状況を発表してもらう。こうしたことを繰り返しながら、徐々に修士論文/博士学位論文ができあがる。

3.研究室の学生による卒業研究論文/修士論文/博士学位論文

 当研究室所属の学生による、2012年度〜2014年度の卒業研究論文、修士論文、博士学位論文のタイトルは以下の通りである。ただし、卒業研究論文は数が多いため、2014年度分のみを示した。また、修士論文と博士学位論文に関しては、2014年度には提出者はいない。
(1)卒業研究論文
 「両親の養育態度が子どもの摂食障害の発症に及ぼす影響と認知行動的介入の可能性」「認知行動療法を用いたアンガーマネジメントの展望」「強迫性障害に対する認知的アプローチの展開」「月経症状に対する行動活性化とマインドフルネスの有用性に関する基礎的検討」「日本人成年男子の社交不安,メディア理想の内在化,情動制御の欠如が,身体不満足感と摂食態度に与える影響」「メタ認知が社会的スキル及び社交不安におよぼす影響」「マインドフルネスのメカニズムと介入方法に関する展望」 
(2)修士論文
 「身体醜形懸念における行動的側面とその影響」「メタ認知理論における入眠困難の理解」「大学生の他者依存性,アサーティブネスおよび自己決定性が不安と抑うつに及ぼす影響」「The positive and negative influence of facebook in relation to depression」「喪失体験からの回復プロセスにおいてソーシャルサポートが意味再構成に与える効果」「社交不安者の生理的反応に対する解釈バイアス」「メタ認知と自己開示の適切性に焦点を当てた認知行動的支援が対人関係満足感に及ぼす効果」
(3)博士学位論文
 「青年期女性の身体不満足感の解明と認知行動的介入の効果」「社交不安に対する役割固定法の効果に関わる要因の影響と改良型役割固定法の効果」「BPD傾向者における見捨てられスキーマとBPDの徴候との関連」

4.教員紹介

(1)略歴
 1982年3月早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得満期退学。博士(人間科学) (早稲田大学)。広島大学総合科学部助手、早稲田大学人間科学部専任講師、早稲田大学人間科学部助教授 を経て、1996年4月より早稲田大学人間科学部教授(現在に至る。現在、早稲田大学人間科学学術院教授)。
(2)受賞など
 2003年度日本行動療法学会内山記念賞受賞、2009年度日本行動療法学会内山記念賞受賞、2009年度日 本感情心理学会「感情心理学研究」優秀論文賞受賞。
(3)最近の主要研究業績
井合真海子・矢澤美香子・根建金男 2010 見捨てられスキーマが境界性パーソナリティ周辺群の徴候に  及ぼす影響 パーソナリティ研究, 19, 81-93.
金築 優・金築智美・根建金男 2010 大学生の心配に対するメタ認知に焦点を当てた認知行動的介入の  効果 感情心理学研究, 17, 169-179.
阿部ひと美・今井正司・根建金男 2011 意思決定理論を適用した役割固定法が社会不安に及ぼす影響 カ  ウンセリング研究, 44, 1-9.
長谷川 晃・金築 優・井合真海子・根建金男 2011 抑うつ的反すうに関するネガティブな信念と抑う  つとの関連性 行動医学研究, 17, 16-24.
安保恵理子・須賀千奈・根建金男 2012 健常者の身体不満足感の理解と認知行動的介入の可能性 カウ  ンセリング研究, 45, 62-69.
安保恵理子・須賀千奈・根建金男 2012 外見スキーマを測定する尺度の開発および外見スキーマとボデ  ィチェッキング認知の関連性の検討 パーソナリティ研究, 20, 155-166.
Ambo, E., Suga, T., & Nedate, K. 2012 Role of appearance schemas and body checking cognitions  in body dissatisfaction, binge eating, and dieting behaviors. 女性心身医学, 16, 283-293.
阿部ひと美・今井正司・根建金男 2013 レパートリー・グリッド法を適用してとらえた社会不安の特徴  パーソナリティ研究, 21, 203-215.
安保恵理子・根建金男 2013 青年期女性の外見に関する否定的感情測定尺度(状態版)の開発 パーソ  ナリティ研究, 22, 182-184.
井合真海子・根建金男 2013 見捨てられ場面における見捨てられスキーマと思考・感情・行動との関連  行動医学研究, 19, 83-92.
矢澤美香子・金築 優・根建金男 2013 青年期のダイエットにおける完全主義的自己陳述尺度の作成と 信頼性,妥当性の検討 パーソナリティ研究, 21, 216-230.
安保恵理子・阿部ひと美・関口由香・根建金男 2014 「青年期女性の外見に関する否定的感情測定尺度  ―特性版―」の作成と信頼性および妥当性の検討 カウンセリング研究,47, 58-66.
今井正司・熊野宏昭・今井千鶴子・根建金男 2015 能動的注意制御における主観的側面と抑うつ及び  不安との関連 認知療法研究, 8, 85-95.
宮崎球一・宮澤敬子・根建金男 2015 メタ認知療法モデルによる母親の育児不安の理解 不安症研究, 7,  83-91.


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この「研究室だより」は、早稲田大学人間科学学術院学術誌編集委員会が刊行した、人間科学研究 第29巻 第1号 補遺号 2016年 (発行日 2016年3月25日) に掲載された、根建金男著 「研究室だより」(pp. 27-28)を、写真を除いて再録したものである。


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